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2025-06-21

コラム

食わず嫌いも好きのうち

"ミスターチルドレン"なんて眼中になかった。彼らの人気の絶頂期にはイタリアにいたので、時々Yahoo!ニュースのランキングで名前を見かける程度だった。日本に戻ってテレビやラジオで聴く彼らの曲は、耳障りいいサビのメロディに青春の応援歌のような歌詞。日頃から軽音楽の歌詞なんぞに応援などされてたまるものかと思っている自分には無関係の音楽。そして生きづらさを抱えている若者を代弁しているような桜井和寿の苦しそうな歌い方が、どこか無理をしている感じがして鼻につくという印象だった。

僕には、月1回カラオケに行く仲間がいる。2人で4時間みっちり歌うのだが、奴はミスチルの大ファンで、歌う曲の8割はMr.Childrenときている。おかげでずいぶんMr.Childrenの曲を聴く機会が増えた。だから大半は桜井和寿ではなく奴歌唱によるものだが、CDも貸してもらったりした。聴いてわかったのは、表現力豊かな非常に優れたバンドということだ。音作りのアイディアが豊富で、ギター、ドラム、ベース、それぞれに表現したいこと、すべきことが明確にあり、それを確実に手に伝達して再現する技術を持っている。桑田佳祐の影響がみてとれる歌詞の言葉遊びも面白い。

中でも興味深く気に入ったのは、現時点で最新となる2023年発表のアルバム"miss you"。ミスチルはミスチルらしくなければという強迫観念から解放されて、無理せず作られた作品集という印象を持った。事実、桜井和寿自身、"聴き手の存在を意識せず作れた"とインタビューで語ったそうだ。全13曲。いわゆるミスチル節といえる曲調のものは2曲。なんとラップが1曲、暗めでシリアスな曲が5曲。それらの多くで、大衆に求められる音楽を創作し続けることの苦悩が語られている。人は成長する生き物なのだ。桜井和寿もすでに50代半ば。Childrenはもはやオッサンになった。豊かな才能の持ち主であればなおのこと、世界の音楽の潮流を誰よりも敏感に感じ取り、新たな表現への意欲は掻き立てられてきたであろう。にもかかわらず、市場が彼らに求めるのは、バンド名に宿命づけられたかのようないつまでも青臭いこれまで通りの青春の応援歌。そのミスチル像は、彼らがデビューから、聴衆の支持を得、成功を掴み取ろうとして模索しながら自ら作り上げてきたものではあるのだし、卑下するほど酷いものでは勿論ないのだが。

一度ついたパブリックイメージ。それに抗うのは世界のどこでも並大抵のことではない。かのビートルズはどうだろう?お揃いの詰襟でアイドルのように振る舞っていた彼らはしかし、1965年の Rubber Soulを契機に 2年後のSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandへと大きく変貌を遂げる。彼らに冠されたイメージすらオモチャのように弄びながら、常に期待を裏切り続けるバンドという新たなビートルズ像を確立していった。
どうもこの私たちの島国ではそれは至難の業のようだ。一度つけたキャッチフレーズは変えたがらず、できあいの創作衝動をパッケージにして売り飛ばす音楽マーケティング、それに飼い慣らされ"水戸黄門の印籠"を期待して止まない成長しないファンたち・・・

13曲の残り5曲は、メロウと形容するのが相応しいような美しい曲たち。昨今のシティポップ再評価や藤井風の出現との関連も想像できる。何気ない日常の風景を題材にした歌詞は星野源の影響か?
なかでも僕のお気に入りは”雨の日のパレード”。バート・バカラックを彷彿とさせる弾むような艶やかなメロディにこんな歌詞がのっかってくる。「遠慮はいらねぇぞ 思いきりかかってこいと息巻いて 子供の飛び蹴りがミゾオチに決まって 体を屈める」
微笑ましくも愉快な歌を聴きながら、どういうわけか泣けてきた。
"Mr.オッサン"の心情が、こっちのオッサンの中の何かと共鳴した瞬間だった。

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